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テーマ展「早池峰山 里の信仰」を見る

2016年7月15日の記事でも紹介した、宮古市北上山地民俗資料館 平成28年度テーマ展「早池峰山 里の信仰」。
見てきました。


盛岡に暮らしていると、早池峰山はあまり身近ではありません。
岩手県沿岸部を含めて広い地域から信仰を集めるということを耳にはしますが、そんなもんかなあ…と。
花巻の方々がとても愛着を持っているいうのは何かにつけて感じるのですが。

そもそも、「山」に対して関心が薄い日々をすごしています。
だいたい、坂道って疲れるじゃないですか。
山伏神楽にたずさわってるくせにこんなことを言うのは申し訳ないのですが。




テーマ展の会場となっている特別展示室は、思ったほどは広くありませんでした。
四方の壁面を使って様々なパネルが展示されています。
3分ぐらいで見終える感じかなあ、というのが第一印象です。
ここから先、ネタバレにならないよう部分的に伏せて紹介します。


まず目についたのは、やや大きめのパネルを使った、早池峰山周辺の地図です。
テーマ展で紹介されているものごとの場所が、地図上にプロットされています。
これがまず大事な仕掛けになっていることに、後で気づきました。

ところで、早池峰山はいろんなところから見えるといいます。
それはそうかもしれないけど、それってそんなに特別なことなんでしょうか。
高い山なら、まあ見えるでしょう。
ぐらいな感じもします。

で、このテーマ展のパネルで特に多いのは「早池峰山の遠景写真」です。
西は盛岡市、東は宮古市の出崎。
あっちからも、こっちからも…と、次々に出てきます。
いや、これは確かに多い。
なるほどこれは普通の山ではない感じがします。
こうなると、遠景写真の枚数を数えるしかありません。
19枚ありました。
山の写真を並べることにどういう意味があるんだろうと思ってたんですが、これは説得力あります。




そして、もう一つの柱が「早池峰山善行院」と「関根早池峰神社」の聞き取り調査をもとにしたパネルです。
「関根早池峰神社」という存在、頭に入ってませんでした。
改めて例の地図パネルを見ると、ぱっと思い出せる以外にも早池峰山の周りにいろいろと神社があることに気づかされます。

展示の中で強調されているのは「行屋(ぎょうや)」です。
遥拝所が前身となっている「関根早池峰神社」とは別に、「早池峰山善行院」のベースであった「行屋」があったとのこと。
そして「行屋」は、参詣者が泊って行く場でもあったと言います。
すぐ前の池では水垢離をしたとのことですが、写真パネルに写っている水たまりの淀み具合ではどうもそう見えません。
スギ造林が茂って以前のように見通せなくなった…というコメントも書かれていることから、水垢離の池も環境が変わったんだろうなあとうかがい知れます。

そして、参詣者にはソバが振る舞われたそうです。
その「出し汁」の特徴についても言及されていました。
これは、小国地区ならではでしょう。

山と信仰というテーマだと、なんとなく遥拝所を中心に考えてしまいがちです。
結果、山頂との距離感や遥拝所の配置という話に終始するのがせいぜいです(たとえば“一直線に並ぶ”とか“各ポイントを結ぶと五芒星になる”みたいな)。

しかし今回の特別展は「行屋」に着目することで、実際に人々が山と信仰にどう関わったがよく見えるようになっていました。
聞き取り調査では、当然長いお話をじっくり伺ったのでしょう。
でも、パネルに書ける文字数は限られています。
数ある話から、あえてもってくるのが「出し汁」。
これにはうなりました。
よく練られています。

加えて高山植物、民俗芸能…早池峰をとりまく自然と人の様々な姿が豊富な写真パネルで紹介されていました。
そのつど、冒頭の地図パネルに立ち戻って、行ったり来たり。

この流れでいくと、最後は「早池峰は広く親しまれています」ということで、各地にある“早池峰山”の石碑が紹介されるのだろうと感じながら見ていきました。
しかし終盤に待っていたのは、思いもかけない写真パネルでした。
石碑だと、やや近世・近代っぽくなるところですが、もっと現代的なものをとらえた一枚。
二度見しました。
会場をぐるっとふりかえって、また見直して。
都合、五度見ぐらいしました。




気づくと、約30分。
四方壁面のパネル貼り出しでこれだけ仕掛けがあるとは…。
時間が経ってしまったので、常設はまた今度にしよう。
と思ったのですが、そういえば10年ぐらい入っていません。
ロビーから近い第二展示室だけ、ちょっとのぞいてみることにしました。
あれ、こんなに絵馬あったかなあ。
馬につける道具も、ひとつひとつ質感が生々しい。
けっきょく、ひととおり常設を見ました。
ノコギリって、ふだんの日曜大工や庭仕事では横びきのヤワいやつしか手にしません。
それだけに、タテびき・板びきをこれだけたくさん目にすると、いつもとは違う脳の別なところが動く感じがします。
目の深さやアサリのつけかたのバリエーションとか。
代表的なのを数点だけ展示するのも、それはそれでわかりやすくていいと思うんです。
だけど、ノコギリも踏みスキも、これだけ並んでこそ初めて伝わるというものが確実にあります。
そして、これだけの物量があるのにとても清潔感があります。
メンテナンスの苦労は並々ならぬものがあることでしょう。

信仰のコーナーには、牛玉法印など目をひくものがありました。
寄贈者の情報を見ると、どうも特別展のテーマとなっている小国地区のものらしい。
帰り際に、学芸員さんにうかがいました。
「常設のは、善行院さんのもの。特別展はそのカマドの方からのききとりをもとにしています」。
なるほど。
同じ善行院について、テーマ展には「ききとり」という手法が色濃く出ていて、常設展は有形の資料が充実しているというわけです。

そんな今回のテーマ展、多くの方にご覧いただきたい。
その際には、必ず常設展も!
あわせて見ると旨味倍増です。



宮古市北上山地民俗資料館 平成28年度テーマ展
早池峰山 里の信仰
~小国・善行院と早池峰神社の調査から~
平成28年6月10日(金)~9月25日(日)


開館時間 9:00~17:00
休館日 毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始など
入館料 一般 200円(100円)
     高校生・学生 150円(80円)
     小学生・中学生 100円(50円)※()内は10名以上の団体料金
交通のご案内 岩手県北バス106急行「川井」バス停から徒歩3分



なんかすごいものを見たなあ…と、ただただ呆然としました。
そんな感じで色々ずーっと考えながら車を走らせながら帰路につきました。
盛岡についてから気づいたこと。
「会場の様子を撮り忘れた」。
うっかりしてたけど、しょうがないよなあ…と、いただいた「資料館だより」をめくってみたら、これまた充実しています。
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「聞き取り調査の報告『糸を通して干したクリについて』」が面白い。
調べる動機と緻密な報告とが、それぞれに味わい深い文章でつづられています。

北上山地民俗資料館へいった際には、ぜひ「資料館だより」も入手してみてください。

by げんぞう

by torira | 2016-07-30 18:40 | お役立ち情報 | Comments(1)

Commented by 一八 at 2016-07-30 22:17
貴重な情報、ありがとうございます。
機会があれば、是非訪問したいと思っております。
早池峰山の北側と南側との違いが、民俗芸能を含むさまざまな生活様式に、あるのか気になることではありますが。

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