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近世南三陸の海村社会と海商

 北東北の「大きい家」というと、どんなイメージを持たれるでしょうか。実際には、中世の豪族・家臣団を維持しているもの、商品経済が発達する中で貧農を取り込んでいったもの・・・など、いろんなケースがあります。少し前までの研究では、いずれのケースも「後進性」といった特徴でまとめられることが多かったようです。
 そういった見方をいま一度考えなおしてみよう・・・というのが、本書「近世南三陸の海村社会と海商」。宮城県石巻市名振浜(旧雄勝町)の永沼家に伝わる文書の解析を中心に、南三陸の大規模イエ経営体の実態を分析しています。
近世南三陸の海村社会と海商_f0147037_239291.jpg 藩政中期から後期にかけての永沼家を、自然条件,土地所有,地域社会でのステイタスなど、様々な観点から考察。ちかごろ、統一感に欠ける論集を目にすることがあるのですが、本書は8名による共著という特徴が吉に出た好例です。とりわけ、目次を見て「いちばん地味かなあ」と思っていた、資金貸付帳簿の分析をする章が非常に充実していました。一見すると数字と個人名の羅列に見える文書をどう整理して分析していくか・・・というプロセスを、わかりやすく解説。従来のいわゆる「金貸し」が、天保の飢饉を契機として資本投資へ発展する兆しをみせているという指摘につなげます。

 本書は民俗芸能には直接かかわりがあるものではありません(犬飼清蔵の名が出てきたりはしますが)。しかし、民俗芸能や年中行事の重要な担い手だった大規模なイエを考えるうえで、避けて通れない一冊だという印象を受けました。

近世南三陸の海村社会と海商
斎藤善之・高橋美貴 編
2010年5月 清文堂出版
税込価格 7,980円


 by げんぞう

by torira | 2010-11-18 23:09 | 資料紹介 | Comments(0)

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