あと20㎝深かったら

 岩手県内のある山間部の集落の話です。そこには2つの芸能が伝わっており、70代のFさんは両方の囃子方として現役で活躍しています。7月のある晩、練習のあとFさんは徒歩で他の人より一足早く公民館を出ました。ところが、待避所(少し道が広くなったところ)のあたりでU字溝にはまってしまったのです。
f0147037_9351213.jpg 右手を下に、横倒しになった格好で、立ち上がるための軸にしたい右手がうごかない。左手でどこかをつかもうとするのだが、なかなかU字溝の縁というのはつかみどころがなく、周りの草をつかんでも、すぽすぽ抜けてしまう。後から同じ芸能のSさんやOさんがクルマで通るのはわかっているのですが、叫んでも伝わるもんでなし、「気づいてければいいなあ」と思うばかり。
 水が流れているときだったので、体にせき止められて水位がどんどん上がってきました。「寒くてガタガタふるえて、心臓もダカダカなって。『Nのおやじが雨ん中に稼いで肺炎になって死んだず』とかそういうのを思い出して、俺もいよいよ終わりだと思ったった」。
 30分ぐらいして、Fさんはようやく自力で抜け出すことができました。家について素っ裸になって着替えて布団を何枚もかけて寝ましたが、寒くて寒くて12時ぐらいまで寝られなかった。

 ちなみに、以前に同じ芸能のYさんから伺ったところによると、
「わらすの頃、Fは川の水汲み場みたいなところで、頭からはまって抜けなくなったことがある」
そうです。Yさんが「Fがはまったでゃー」とさかんであるって大人を呼び、事なきを得たのだそうです。同年代のTさんはそれをきいて
「はあ、おらそいつは知らねえども、三回目やればこんどは終わりだな」
と笑っていました。


 by げんぞう
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by torira | 2008-02-11 09:36 | 芸能 | Comments(0)

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