南部神楽の地謡

 宮城県北から岩手県南に分布する「南部神楽」にはさまざまなタイプの演目がありますが、その大部分を占めるのが「セリフ演目」です(このテの演目を「詠儀〔えいぎ〕神楽」とも言うようです)。これは、舞手がセリフを語り、要所ごとに舞をはさむ・・・という演劇的なもの。「わざわざそんな説明をしなくても、芸能としてはそれは当たり前では?」と思われるかもしれません。確かに、いまの演劇のスタイルとわりと共通するものがあるので、「それが普通」という見方もあるでしょう。

 でも、役者みずからのセリフだけで進行していくのではない演出が、古典芸能ではわりと見られるのです。たとえば能では地謡、歌舞伎だと浄瑠璃や長唄があるわけです。北東北のそのほかの神楽では、太鼓打ち(胴取り)や、幕裏の人がそういった役割を担う場合がよくあります。

 もちろん、南部神楽のセリフ演目でも、胴取りが唄をかける場面はよくあります。近ごろ目にした駒堂子供神楽「屋島の合戦」では、冒頭で「羽黒山~」といった唄をかけました。この唄は、必ずしも演目のストーリーを反映しているわけではありません。どちらかといえば、これから描かれる場面の自然情景の厳しさを連想させる・・・といった効果を感じました。
 そして、その後は舞手のセリフによってストーリーが次々と進められていきます。激しい戦闘シーンがあり、その中で行方不明になった兄を最後に探しに行く・・・というところで幕となります。

 終盤、胴取りの唄に改めて感じるものがありました。そこでは「兄を尋ねて・・・」という歌詞の唄がかけられます。直截的にストーリーと関わる内容の唄です。それまでは登場人物それぞれのセリフによって、戦乱での個性の拮抗が描かれていました。ところが、胴取りがこの唄をかけることにより、一気に「兄を尋ねて・・・」というテーマが前面に出てくる。
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 南部神楽の「胴取りの唄」は、うっすらとした隠喩の効果をもたらしていることが多いけれども、テーマを濃厚に描き出す可能性も持っているのだなあと感じさせられました。

 by げんぞう

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by torira | 2011-03-08 19:48 | 芸能 | Comments(0)

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